パーキンソン病診療メモ 2 「幻を見る人」|横浜市・桜木町の内科「のげ内科・脳神経内科クリニック」

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パーキンソン病診療メモ 2 「幻を見る人」

桜木町駅を見下ろす、雑居ビルの3フロアを占める、のげ内科・脳神経内科クリニックには毎日120人以上の患者さんが診察、検査、リハビリにおとづれる.そのうちの20人くらいがパーキンソン病の患者さんである.

パーキンソン病は進行性の難病で患者さんを苦しめるが、寡動、visual que、ジスキネジア、幻視などのユニークな特徴があり、この病気を難病の一言でかたづけられないものにしていると思う.

先日は寡動、身じろぎのなさ、に注目したが、本日は幻視にスポットをあてる.

パーキンソン病の幻視は、視界の端にフワフワと白いものが漂うこともあれば、視界の真ん中に全く知らない白い子供が現れたり、するのだという.民話に登場する座敷わらしはパーキンソン病の幻視が元ではないか、というのは医学会での有名な仮説だ.ある患者さんは、クモの糸がフワフワと浮いて、それを手繰り寄せると、向こうの方でクルクルと糸車が回りだす.音は一切しないが気配、実体感があるという.彼がナースステーションで1時間近く、楽しそうに糸車を回していた.「僕には見えるんです」という言葉から、気配、実体感しっかりと味わいながら、頭の半分ではそれが幻覚だとわかっている.不思議な感覚だ.

その不思議な話を彼らの主治医として、私は日々拝聴する.淡い嫉妬すら感じながら.

さて、80歳台男性の話だ.その長女が、ある日の外来で困り顔で曰く、患者が見えない何かと喧嘩しているとのこと.
「こらあ、でていけ、でていけ」、と自分の布団の中に怒鳴っている.
また、別の日には、テレビボードの下に向かって「犬は犬小屋で寝ろ」怖い顔で怒鳴っているのだ.
どうやら、患者さんが犬の幻視にいら立っているようだ.
これを真夜中にやられれば、娘さんとて、ははあ、これが、例の幻視ね、と余裕を持って対応するのは難しかっただろう.

こちらは70代のパーキンソン病患者さん.男性だ.いつも車椅子で来院する.
一通りの診察が終わる.少し疲れた顔をしているので、最近、寝られていますか、と質問をすると、案の定、イタチが布団の中で暴れるので、重さが8Kgもあるので、眠りが妨げられているという.

「イタチとはやっかいな幻ですね」と患者さんが幻覚ととらえていることを確認できたら、「幻は消しちゃった方がいいですかね」私は提案する.※患者さんは重さも感じている為、幻覚とする.

ほとんどの患者さんの答えは、Yesだ.たとえコミカルに見えても、当のご本人にしてみれば心地いいものではないようだ.先出の糸車のような、一部の例外を除いて.

では、どのように幻視・幻覚を消すか.
運動機能に余裕があれば、まずはシンプルに増やした抗パ薬を減らすべきだ.特にレボドパに比べて、アゴニスト、補助薬で幻視が多いとされ(パーキンソン病ガイドライン2002)、たとえばリハビリを週2回行うと小走りができるくらいに改善する人も多いが、そんな患者さんのアゴニストを10%くらい減らしたり、アマンタジン、MAOB/COMT阻害薬等があればそれを減らす.

多方、施設入所となるか、ならぬかの瀬戸際で、なるべく早いADL改善が求められ、抗パ薬を増やしてゆく過程で幻視がでるケースもある.この場合、減薬はせずに、抗パ薬を増やしながら、幻視を抑える薬を投与するのが理想だが、アクセルとブレーキを同時に踏むので、経験値を要する.

幻視を消す薬として、一般的にはベリーマイルドなコリンエステラーゼ阻害薬を第一選択薬として推奨されているが、当院では、切れ味の鋭い向精神薬を最初に用いる.切れ味よく幻視を消した上で、さらに抗パ薬を増やし、ADL改善につなげれば、施設入所は避けられる.

先ほどのイタチの幻覚では、向精神薬、オランザピン2.5mgの半錠1.25mgを開始.リスペリドンに比べて、切れ味こそやや劣るものの、蓄積がなく、副作用が少ないという個人的な印象がある.それでも過鎮静を警戒して半錠にするのは、過鎮静のダメージが大きいからに他ならない.

活動性の低下、それによるリハビリ効果の減少で済めばまだいい.誤嚥性肺炎、窒息など生じれば目も当てられない.

先ほどの患者さん、翌月に来院、まずはオランザピンの副作用がないことを確認.同時に効果もまだなく、イタチとの格闘は続いているという.

オランザピン2.5mgを半錠から1錠にdose upして翌月、興味深いことにイタチの体重は8Kgから5Kgにsize downしたという.しかしそれが背中をつまんでくるという.また、そのヒゲが自分の急所にあたる訴える.先日は、イタチとプロレスをして、最後は自分が勢いで勝ったが、かなり運の要素も強かったと、最後は敵へのリスペクトも忘れない.

そのギリギリの死闘に思いを馳せながらオランザピンは3.75mgまで増量して様子を見る.当院の在宅リハビリを導入うして週2日のトレーニングに移行したところ、ADLはあがり、不思議と幻視も消えたようだ.

ここからは、オランザピンを漸減し、再び幻視がでるようであれば、そこでコリンエステラーゼ阻害薬、を投与する.つまり、まずは慎重に向精神薬を開始して素早く確実に幻視を止めて、徐々にコリンエステラーゼ阻害薬に置き換えてゆく.これがのげ内科・脳神経内科クリニックの幻視への対応だ.

改めて、幻視とは何だろう.私たちの脳が見て、触って、気配を感じて認識するものが実体なら、幻視は患者さんにとって、実体と言えるのではないか.ただ、出たり、消えたりはするのだが.そして、それが消えるときに、患者さんの感情は動かないものだろうか.

今日も、明日も、そんなとりとめのないことを考えながら、
パーキンソン病患者さんの診察をさせてもらおう.

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